ラノベ寄稿

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【感想】りゅうおうのおしごと!5「竜王のお仕事をただ冷静に熱く語る(矛盾)」

りゅうおうのおしごと!5 (GA文庫)

 

ラノベ貴公手に汗握る『りゅうおうのおしごと!』の究局。将棋を思わせる緊張感

 

将棋という名の奇跡に最後の審判が下される、激闘の第5巻!
「アーロハ―♪」
遂に始まった八一の初防衛戦。挑戦者として現れた最強の名人と戦うべく常夏の島を訪れた八一だったが……なぜか弟子や師匠までついて来てる!? 一門(かぞく)旅行!?
おまけに銀子と夜の街でデート!? そんなんで名人に勝てるのか!?
あいと天衣、そして桂香のマイナビ本戦も始まり、戦いに次ぐ戦いの日々。誰もが傷つき、疲れ果て、将棋で繋がった絆は将棋のせいでバラバラになりかける。……だが、
「もう離さない。二度と」
一番大切なものに気づいた時、傷ついた竜は再び飛翔する――!!

 

 理性「まーた幼女がヒロインのラノベ読んで(n回目)」

ラノベ貴公「そっすね」

 

しかし今巻はがっつり主人公にスポットを当てた将棋ストーリー。

 

名人vs竜王。防衛戦、始まる。

 

一冊を通して緊張が漂う。表紙を捲ると、まずはカラーイラスト。

 

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いきなりワクワクさせてくれますねっ!

 

さて、最初の防衛戦。舞台はハワイへ。

ライトノベルを思い出させる軽快な導入から、一戦の敗北で、否──竜王の将棋の"否定"から空気はどん底に突き落とされる。

竜王としてのプライド。高校生のメンタル。世間体。周りの温情さえ、同情に他ならない。

徐々に緩やかに確実に沈んでいく。才能の前に立ちはだかるのは、圧倒的な才能。

 

この構図、私は三巻の竜王山刀伐さんがダブりました。

将棋の世界は才能こそ絶対。熱い勝負の果てには冷徹な結果だけが残る。

勝負事において純粋な自明を「りゅうおうのおしごと!」は四巻に渡って表現してきました。しかし竜王こと八一を確実に勝る才能は、おそらく、名人をおいて他にいない。それもまた自明なのだ。

山刀伐さんは名人と研究会を開く仲でもある。この展開は因縁的なものを感じます。

 

不覚だったのは、姉弟子を突き放すシーン。これも三巻で顕著でしたが、八一と銀子の間にある圧倒的才能の差。これを名人との対戦と引き合いにするのは意図的というより、もはや悪意的ですらある。

 

さて、物語の転機は結果的には明らかでしたが、あの人でしたね。

 

そう、「りゅうおうのおしごと!」において才能といえばあの人! 三巻で散々ボロボロにされて今巻でもボロボロになってたあの人!

 

りゅうおうのおしごと!」凡人枠代表・清滝佳香ぁ~!

 

 ここの挿絵、控えめに言って最高だった。ライトノベルだからこそだと思う。

 

 その後のあいの挿絵も、驚きと半分、困惑半分、微妙に大人びた端正な表情が絶妙。

 

ラノベ貴公は端的に言うと「ラノベはイラストが九割」派閥なので、やはり面白い作品には素晴らしいイラストレーターさんがついて然るべきだと思いますし、まあ商業的にもこの理屈は因果逆転的なサムシングで自明なのは確定的に明らか! といいますか。何が言いたいかというと、やっぱイラストって重要ですよネ!

 

 そして竜王防衛戦はひとつの分水嶺へ。ここで負ければ竜王のタイトルが奪還される。

 

 才能と才能のぶつかり合いこそ、将棋である。

 

そういう意味では、才能の化身・名人の将棋は奇しくも竜王によって"否定された"されたのだと考える。鵠さんの言葉を借りるなら、「伝説を終わらせる者」。それは「"将棋"というひとつの結論を終わらせた者」という含意なのかもしれない。

 

 プロも、女流も、アマチュアもファンも、次々とこの地を目指していた。

 いつ終わるかもわからない。到着した頃には終わっているかもしれない。

 それでも彼らは、彼女らは、この場所に来ずにはいられなかった。たった一局の将棋を見るためだけに。

──第五譜「閃々散華」より

 

このシーンが熱すぎる。記事を書きながら、「竜王のお仕事」を朧気ながらに理解したような気がした。それを言葉にして語るのはナンセンスだと思うので、省略。

 

終局して見開きの挿絵にグッときた。さすが正ヒロインですね!(女子小学生)

最初の出会いが明示されてなかったからこそ、なんだと思いますが。この「ここからまた物語が始まる。そうして俺たちは将棋を指していく」などとポエミーな感傷に浸ってしまって堪りませんでしたっ……!

 

一巻を通して嵐の中の静けさから急な絶望、プレッシャーから這い上がっていく粘り強さ、心の強さ……それは「りゅうおうのおしごと!」でいうところの"将棋"のようでした。文句なしのカタルシス

全五巻を通して培ってきた弟子や仲間との繋がりや、決して覆らない才能に対し、八一がひとつの答えを出した節目の巻だったと思います。「りゅうおうのおしごと!」というタイトルに深い意味を見ました。確かにライトノベルではあるものの、考えさせられる作品だなぁと。

 

以上本編感想でした。ではでは、その後の数ページを感想。

 

『あとがき』、白鳥先生の気持ちがしみじみ伝わってくる。私も次巻が嬉しいです!

 

 『伝説を終わらせる者』、短い文の中で綴られる各々の想い。銀子の本音、苦悩、力強さ。八一の覚悟と自信。どちらにも言えるのは、意思が固くなったな、ということ。成長と言い換えてもいい。稚拙な感想だが、これからが楽しみだ。

 

感想戦』、月夜見坂さんほんと好き。

 

(ここまでネタバレ全開の記事を読ませておいてなんですが)未読の方に勧めるなら、私からは一言。

 

──「熱い」作品です。是非。