ラノベ寄稿

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【感想】まるで人だな、ルーシー

まるで人だな、ルーシー (角川スニーカー文庫)

 

読書中のラノベ貴公こいつ等どんだけ自殺したいんだよ……

 

第21回[秋]スニーカー大賞《優秀賞》受賞作!

1分間の願いが叶う代償は【打算】【悲しみ】【キスのうまさ】……。少女の姿に展開するBOXは、《人身御供》となった御剣の願いを叶える。彼の人間らしさを贄にして。第21回[秋]スニーカー大賞《優秀賞》受賞作!

 

 理性「まーた幼女ヒロインもの読んでる」

 ラノベ貴公「そっすね(真顔)」

 

 以下感想です。

 

エキセントリックボックスとは「一分間だけなんでも願いを叶えてくれるよ! 願いの代償に人間を構成する要素をもらうね!」という設定の幼女のようなサムシング。

 

???「僕と契約して魔法少女になってよ!」

 

だいたいこんな感じ。

まさにソウルジェムの穢れのごとし、エキセントリックボックスは人身御供から人間味を奪うわけです。例えば、【打算】【悲しみ】【キスのうまさ】。そうして人間を欠落していく主人公はいったい何に成るんでしょーね? という話。

 

「願いを叶える」、というよりも「人間味を奪われる」というのが本作ではキーになる。むしろ「人間味を奪われる」ために「願いを叶える」といってもいい。

主人公が人間性を失う中で、否、人間性を失う前から持っていた「価値観と行動の矛盾」に対する葛藤。それを「人間性を捨てること」で無くすとはなかなかに皮肉が効いている。もっとも、主人公は人間に拘っていたわけではないけれど。

 

設定はファンタジーというかまあジャンルはローファンタジーにあたるわけですが、その実キャラクターの心理は徹底してロジカルなのがよかった。エキセントリックボックスの特性を上手く活かした、感情を排除して感情を考察する心理描写とそれに基づく展開など、そんな題材理系マンとして大好物と言わざるを得ない。

 

一方でエキセントリックボックスが感情的になっていくのも論理的というか自明というか。この「AだからBになる」みたいな辻褄の合う感じが気持ちいい。現実主義というか、感情を題材にしているのに感情的に話が進まないというのは個人的に好きなところだけれど、題材抜きにしても上手い文だと思います。

 

さて、あとがきで筆者さんもエンタテイメントと述べてるからいいのかな。

ぶっちゃけますと、

 

中盤以降から登場人物がはっちゃけ過ぎてヤバい。

 

氷室「俺を殺せぇぇぇ!」

夕凪「私が死ぬぞぉぉぉ!」

 御剣「俺が死ぬぅぅぅ!」

 

 太宰然り、考え過ぎると自殺したくなるあるあるでしょうか? ねーよ。

 

 

 

周りと比べて自分が欠落していたり矛盾していたり、ふとそんな漠然とした劣等感を思うことがある。本作やそのあとがきを読んで、そんな自分にどこか安心した。自分に皮肉めいて、言ってみるのだ。

 

まるで人だな、ルーシー

 

序盤は意識高い系の文章が重かったけれど、登場人物が出揃ったあたりからはかなり楽しく読めました。文句なしの異色作、是非。

 

まるで人だな、ルーシー (角川スニーカー文庫)

まるで人だな、ルーシー (角川スニーカー文庫)